MENU
Magazine
2011.11.14

夢は実現するか、実現しないからこそ夢なのか?|高木安雄(健康マネジメント研究科委員長)

夢ですぐに思い出すのは、アメリカの公民権運動の黒人指導者・キング牧師の「私には夢がある」(I Have a Dream)の演説である。1963年8月、自由と職を求めて25万人が参加したワシントンDCのワシントン記念塔からリンカーン記念堂までの大行進の際に行われ、アメリカの公民権運動の記念碑的な言葉として歴史に残されている。
そこでは、「いつの日か、ジョージア州の丘の上でかつての奴隷の息子たちとかつての奴隷所有者の息子たちが、兄弟として同じテーブルに着くという夢」「いつの日か、私の4人の幼い子供たちが肌の色によってではなく、その人格の中身によって評価される国に住むという夢」などがI Have a Dreamの言葉と共に次々と語られて、翌年にアメリカ連邦議会は「1964年公民権法」を成立させるのである。
キング牧師の「人間は鳥のように空を飛べ、魚のように海を走ることが出来るようになったのに、なぜ兄弟として一緒に肩を並べて歩けないのか」という訴えには、社会問題を研究する者にとってその困難さを再認識させ、研究の熱意をもらったのである。

キング牧師は1968年4月に39歳の若さで暗殺されてしまうが、本年10月にワシントンDCにある建国の父・ジェファーソンとリンカーンの両大統領の像のそばに、腕を組むキング牧師の巨像が完成したという。オバマ大統領が除幕演説をしたが、生きていれば82歳となるキング牧師は、今のアメリカの状況と公民権運動の申し子ともいえるオバマ大統領をどのように評価するのか、ぜひ聞きたいものである。
25万人を集めるかつての力はないが、ニューヨークのウォール街近くの公園では職を求める反格差の若者たちが夏から占拠しており、オバマ大統領も改善しない失業率とアメリカ経済に苦戦中である。ギリシャ問題、EU経済の混迷の中で、アメリカに限らず自由と平等の夢の実現は容易でない。むしろ、実現しないからこそ夢なのかもしれない。雪降る公園で反格差の占拠を続ける若者の平等への熱意は時代を超えて生きている。

東京・神田の古本屋街を歩いている夢の話である。私が通った大学は千葉市にあったので、神田の古本屋周りはなけなしのお金とバックを抱えての一大イベントであった。夢では、社会科学専門の古本屋の棚の前に佇んで本を手に取りながら、その内容と意義を後ろにいる学生に語りかけている。ところが、嬉々として語りかけている途中に涙が出てきて、泣いているのである。驚いて目覚めてしまい、なぜそんな夢をみたのか、考え込んでしまったが、やがて若き日のもっと本を読んでより良い社会を作るのだという思いが叶わなかった悔しさがその理由であることに気づく。涙の夢をみたのは、あの3.11の一週間後、3.18の金曜日の夜であったことを付け加えておこう。

(掲載日:2011/11/14)