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2010.05.27

SFC20周年を迎えて:夢は持続できるか|高木安雄(健康マネジメント研究科委員長)

今から15年前の話であるが、米国のワシントンに仕事で訪れた際、現地の日本大使館員に「治安が悪いと聞いていたけど、安全ですね」と話したら、「そんなことはない。今でも朝、家を出て、夕方に家に戻れる確率がベトナムの最前線より低い地域がある」と教えられたことがある。それゆえに、ニューヨークで出会ったアフリカ系アメリカ人が、「今日は二十歳の誕生日なんだ。いちばん喜んでいるのは両親だろう。自分の生まれた地域では、多くの若者がクスリと暴力で二十歳前に死んでいるから」と語る二十歳の重さもようやく理解することができる。

SFCの20周年も同様に幾多の困難があったにちがいない。その片鱗は記念式典でも紹介され、諸先輩の努力に頭の下がる思いであり、ようやく一人前になったSFCの今後をどう担っていくのか、その責任の重さを感じている。

ちょうど今年、還暦を迎える自分が、さて、二十歳の時に何を考えていたのかを思い巡らしてみると、怖いものは何もなく、今から見ると生半可な知識で突っ走っていたことに気恥ずかしい想いだ。やがて大学を卒業して、世の中を知ることになるが、大学で習った教科書どおりでないことに戸惑い、自分の思いと知識を仕事の中でどう再構成して、実りある人生を構築するか、うじうじと考えていたものである。今から見ると、何を馬鹿なことをと思うが、若者とはそんなものだ。

とはいえ、長く生きた者にも落とし穴がある。「数の増大は陶酔につながる」という言葉があるが、生き延びたことを喜んで自己愛に陥り、若き日に抱いた夢の検証すら忘れてしまうのである。このきびしい時代、生きてりゃいいさと量や時間が大切にされるのもわかるが、若き日の夢はどこまで達成されたか、持続ある志の検証こそがSFCの今後の課題だろう。

(掲載日:2010/05/27)