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2010.07.15

月に雁|村井純(環境情報学部長)

ニューヨークのJFKの待合室で窓から外を見ながら飛行機を待っていると2001年の9月11日に同じようにここで見ていた景色を思い出す。遠くに見えるマンハッタンから一筋の煙があがり、その煙は真横に同じ高さで伸びていったのを覚えている。あの時の経験は忘れられないのでまたどこかで書きますが、この空港ではコンコルドもよく見たし、恐怖の小さいプロペラ機もよく乗らされた。そもそもアメリカでは飛行機に乗るのが当たり前だし、自分で操縦する人も多い。

学生時代にバークレイを訪れていたときに「ジュン食事に行くか」と誘った、まだ学生だったかな、今はWisconsin大学で教授となっているBart Millerは、同じオペレーティングシステムの研究開発(BSDね、今のApple OSXの原型だよ)をやっていた仲間だった。一応、http://pages.cs.wisc.edu/~bart/ の写真見てよ。このかわいいメガネは実は牛乳瓶の底なの。「どこ行くの?」「ハーフムーンベイ」「へぇ」。今思えば仕事の途中の夕食にバークレイからハーフムーンベイに行くわけない(遠い)。連れて行かれたところはなんと飛行クラブで小さな飛行機ばかりがある。「嘘だろ、飛行機に乗るの?」と初めてのことに恐怖がこみ上げる。バートに「副操縦士になれ」と言われ、一応の説明を受ける。「そこの計器で針が動いてるだろ」「いや動いていない」。にわかに、計器を数回叩いて、それでも動かない計器をみて、「ネバーマインド」だって。マインドするよ!

で牛乳瓶の底。パイロットの免許は視力がないとだめとかいわれていたのはこの国ではぜんぜん違うことがわかり、おっかない飛行でハーフムーンベイのレストランの裏庭の飛行場に降りると、入り口に寝袋を二つ縦につなげたみたいな、白いプラスティックがおいてあった。

なかなかすばらしいシーフードレストランだけど、他の客は一組の夫婦しかいなかった。「あなたたちも飛んできたの?」ってことは、このレストランは飛んでくる客専用なのかな。驚いたのは、後からレストランを出ると、さっきの寝袋がない!バートに聞くと、「あぁ、あれは今流行の飛行機キットであれでも二人乗り。重なるように二人で乗って、後ろにプロペラが付いている。通信販売で買って作って、検査官がチェックしに来てくれて承認されると飛べるんだよ」と説明してくれた。うそだろ、空飛ぶ寝袋か、プラモデルだな。

こんな経験もあるので、「空飛ぶ自動車」にこだわってるのかもしれないけど、まさに、先週そんなニュースがあったね。あの国じゃできちゃうと思ったけど、あれは小型飛行機が自動車に無理になっているようでイメージが違う。この話題授業でも時々するけど、やっぱり多くの学生は自動車は空飛ばない方がいいと言う。理由を聞くと、すばらしいイマジネーションに敬服する。「電線にひっかかるからあぶない」「夜帰宅するときに近所がうるさがる」。でも次の答えには心から感動した。SFCの学生ってすごい!

「先生、夜空に月を見ていて、手前に自動車が飛んだら、興ざめです」

(掲載日:2010/07/15)