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2008.05.01

1年生の春、2年生の春|阿川尚之(総合政策学部長)

春が来た、桜が咲いた、SFCに新1年生がやってきた。4月1日のガイダンスに始まり、2日は竹中平蔵さんのキックオフレクチャーがあって、3 日が入学式。4日、5日、7日とガイダンスが続き、8日から授業開始。毎日ガイダンスを受け、知らない人が入れ替わり立ち替わり現われ話を聞かされ、新入生諸君はさぞ忙しかっただろう。でもこれだけの行事を実施するために、担当教員と事務の人たちは綿密な準備をし、ずいぶん働いた。ご苦労さまでした。

春休み中静かだったキャンパスは、新入生を迎えて、すっかりにぎやかになった。いや、にぎやかになったなんて、生易しいものではない。バスが混む。特に授業が始まった8日から3日間ほど続けて雨が降り、湘南台の朝は惨めだった。寒い、濡れる、列は長い、なかなか乗れない。バスをあきらめてタクシーに乗ろうとしたら、こちらも長蛇の列。日が経つと学生の行動パターンが確立し、これほどの混乱は起きなくなるのだけれど、新入生が慣れるまで大変だ。いつか電車がキャンパスまで走ることを夢見つつ、余裕をもってキャンパスへ向かおう。

そんななか、4月1日、総合政策学部長として挨拶するため檀上へ立ち、新入生のほぼ全員と初めて向き合った。「おお、君たち、よくSFCへ、総合政策学部へ来たな」と思いつつ、みんなの顔をぐるっと見渡した。なにせこれまで「受験者総数XX、合格者総数YY、入学手続者数ZZ」と数字でしかなかった諸君が、425人の生身の若者としてそこに座っているのである。

若いとはいえ、総合政策学部新入生425人は、これまで色々な道をたどり、決断をしてSFCへやってきた。ちっとも若くない私も、様々な経緯があって、現在学部長を務めている。もし諸君のなかの1人でも別の学校へ進んでいたら、もし私が教員ではなく別の仕事を選んでいたら、2008年の春、諸君同士、また諸君と私は、こうして教室で一緒にならなかった。それだけで奇跡のようだ。混んだバスでやってきた価値がある。

その日以来、しばしば新1年生と会う。わが学部の新入生は「総合政策学部の創造」が必修科目だから、毎週火曜日の第1時限、私といやでも顔を合わせねばならない。ただ大きな教室では、なかなか1人1人とゆっくり話ができない。総合の1年生にとって学部長は1人だが、私にとって学部の新入生は425人いるのだから。

それでも、キャンパスでバスのなかで、1年生が声をかけてくれる。あるいは挨拶をする。学食でスパゲッティの皿をかかえて座るところを探していたら、「エエー、学部長がこんなところで食べてる」と言って、仲間に入れてくれた1年生のグループがあった。「創造」の授業中、講師が話しているあいだシータ館のうしろに上がったら、私が背後にいるのに気づかず、最後列で「おおい、阿川が歩いてるぞ」と警告を発している男子学生がいた。肩をたたいて「阿川とは何だ、呼び捨てにするな、前に行け」と注意したら、えらく恐縮して前方の席へ座りに行った。君、意外にすなおだねえ。メールで授業の感想を送ってきてくれた人、「海上自衛隊の護衛艦に乗りたい」と私に叫んだ人、学部長室まで質問をしにやって来た人。KOEの練習で一緒に歌った1年生たち。みんな元気でいい。

ところで、「創造」の授業でSAをつとめているのは、3年前1年生だったTさんを筆頭に、昨年同じ授業を取った諸君である。彼らは去年の春、私のところへ授業の感想と要望を言いにきた。それで知りあった。1年間でたくましく成長し、2年生になった。

毎年春がくると、学生は冬のあいだ蓄えたエネルギーを一斉に爆発させ、さまざまな花を咲かせる。すっかりキャンパスに溶け込んだ新2年生を見て、そういえば私もまた、この春、学部長2年生に進級したことを思った。

(掲載日:2008/05/01)

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