情報技術がどんなに進んでも、人間同士が直接対面することが最も重要だ。そのとおりだと思う。特に、人命にかかわる医療分野ではそう言われている。と思っていたら、最近、遠隔医療に関心をもちだして、慶應大学の「コ・モビリティプロジェクト」の一環として実践を始めてみると、時と場合によっては遠隔医療に思わぬ効果があるという場面に出くわす。
この実践では、東京都内の40人程の高齢者の参加を得て、テレビ電話を介して、参加者に対して医師とスタッフが、食や運動や健康の相談に乗る。病院に行くにも足が悪い。行けば、長く待たされ短時間の診察で緊張する。結局、病院に行かなくなるという人も多い。このサービスの利用者で、重度の糖尿病に罹っているにも拘わらず、病状に自分では気がついていなかった方もその一人だ。病院ぎらいで受診は一度もしていない。テレビ電話のセッションで相談にあたった医師がどうもおかしいと感じ、プロジェクトの一環として事前に自己採血キットによって実施した採血結果と問診から、すでに重篤な状態に陥っていることが判明した。「すぐに病院に行くように!」とアドバイスし、ようやく本人もことの重大さを認識した。受診までの数日間、徹底した食事療法をし、病院初診時には数値もかなり改善していた。その後、検査入院をし、現在まで、薬は使わずに平常に近い状態を保っている。
相談にあたった医師によれば、そのままでは、数日後には、糖尿病昏睡に陥り命も危険にさらされたであろうとのことだ。ご本人にとっては、まさに、「助かった」ということである。おもしろいことに、医師の方もテレビ電話の利用を「お互いにリラックスできてとてもいい」という感想を強くもっている。長年の臨床経験を踏まえて、生活習慣の改善などについては、病院で患者を待っているのではなく、テレビ電話で患者の生活空間を訪れることで、持続的な効果をもたらすことができそうだと確信したという。このプロジェクトは、今後も続けて行く。
(掲載日:2008/06/26)
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