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2006.12.22

私とパソコンとの闘い|佐藤蓉子(看護医療学部長)

私とパソコンとの闘いの前には、ワープロとの格闘があった。随分昔の話になるが、初めてワープロを使い始めた頃は、文章を考えながらワープロに打ち込むという作業ができなくて、文章をまず手書きでつくり、それを見ながらワープロで仕上げるといった作業だった。なんのことはない、ワープロといってもタイプライター以下の使い方だった。それでも、慣れないワープロを使って卒業論文を仕上げたときのほっとした気持ちと充実感は格別のものであった。しかし、当時は手書きの卒論が多かったなかで、ワープロで作った卒論は思いがけない大汗の原因にもなった。論文審査のときの指導教授のご指導は、手書きであったらありえないような単純な誤字や脱字のご指摘に始まった。その果てしなく長く続く時間に身体中から滴る冷や汗を感じながら、人間ってこんなに汗をかくことができるのかと密かに驚く自分もいた。最後は、厳しい本質を突くご指摘に止めを刺されながらも、「あなたには看護や教育という社会に役立つお仕事があるのだから・・・」という暖かい励ましのお言葉とともに、Aの評価を頂き卒業させていただいた。その冷や汗ものの卒論は、私と慶應大学との幸せな交流の始まりとなり、ワープロとの別れにもつながった。

その後、まもなくパソコンを使うことになる。ワープロとあまり変わらない程度の利用のしかただったが、殆ど一日、瞬きも忘れるくらいに熱中してデータを打ち込み終わった夕刻、突然フリーズしてしまい、その日の作業がすっかり無駄になってしまうという悪夢のような経験も重ねた。SFCに就任することが決まったときに、最初に考えたことは、パソコンを使いこなせないのに、あのキャンパスに行っても大丈夫だろうかという真に瑣末な危惧だった。その危惧は、やがて現実のものとなる。着任して2年目くらいに、ウィルスが猛攻撃を仕掛けてきたことがあった。その日の夕刻、看護医療学部の南側のウイングから幾つもの悲鳴が上がったが、その悲鳴の発生源のひとりになった。しかし、さすがSFCである。ITC(Information Technology Center)からすぐに専門の方が駆けつけてくださって速やかに処理された。ITCの方が汗を拭きながら部屋から部屋へと飛び回っておられる姿を見ながら、私の代わりに冷や汗をかいてくれる人がいることを知ってとても安心できた。私とパソコンとの闘いはITCという頼もしい助っ人を得ることで、私が優位になったのである。

(掲載日:2006/12/22)

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