MENU
Magazine
2005.08.19

SFCでお気に入りの場所|小島朋之(総合政策学部長)

いつも学生たちで賑わう湘南藤沢キャンパスでも、夏休み中の8月はさすがに閑散としている。聞こえてくるのは施設改修工事の音と蝉の鳴き声だけで、たしかに気分も落ち着く。しかしながら、やはり、静けさはSFCに似合わない。

私が学部生であった時代には三田キャンパスの研究棟は教員の個室が並び、普段でも学生たちの姿はまばらで、静寂が廊下一体を包むという印象であった。静かな三田の研究棟と比べて、SFCはまったく違う印象である。研究室と教室が混ざり合っていることもあり、教員よりも学生たちの姿が圧倒的に目立ち、躍動感が辺り一体に満ちている。訪問者の中には、あきれ返って「これでは、五月蝿くて研究などできませんね」と皮肉を口にする人もいる。研究とは、一人で静かに沈思黙考することが前提と考えているからだろう。それも必要であるが、研究には異なる観点、多様な意見がぶつかり合うブレーンストーミングこそがそれ以上に必要である。夏休み中でも、いくつかの共同研究室で学生たちが居残って議論と共同作業に取り組んでいるのがSFCである。

私の研究室も同様で、共同研究室と隣り合わせとなっていることもあり、学生たちの姿で溢れかえっている。研究室に出入りするのは、一部は大学院生である。共同研究室で大学院の授業やプロジェクトが行われるからだ。残りは学部生で、研究プロジェクト(研究会)でのグループワークや卒業制作に取り組むという理由で四六時中ここに居座っている。寝袋を持ち込み、机が簡易ベットに変わっている。自宅や下宿よりも研究室で寝泊りしてしまう夜間「残留」組も少なくない。鳩までも「残留組」だ。いつの間にか、開けられた窓から入り込んだ鳩が研究室に同居して、巣作りさえしてしまったことがある。

研究会の卒業生もすでに12期となり、あわせて200名を超えている。みな仲が良く、卒業後も同期を中心にしばしば恩師抜きで会っており、実に「群れたがり」が多い。「群れたがり」の癖を付けたのが、共同研究室での「残留」であるようだ。卒業生の多くにとって、SFCアイデンティティを感じさせるのがこの喧騒の「小島研究室」である。

同じことは私自身にも当てはまる。学部長としてすでに4年を学部長室で過ごし、さらにこれから2年間も留まることになるが、やはりSFCでもっともお気に入りの場所は「小島研究室」でありつづけるだろう。

(掲載日:2005/08/19)

→アーカイブ