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2006.06.15

音楽:鑑賞する対象|佐藤蓉子(看護医療学部長)

私にとっての音楽は、専ら聴いて楽しむものである。自分が演奏したり歌ったりすることは殆どない。せいぜい気分がいいときの鼻唄程度である。日常的に音楽を流しながら何かするという習慣もない。音楽を聴きながら仕事をする人もいるが、私にとって仕事中の音楽は騒音に聞こえてしまう。したがって、音楽を楽しむときは演奏会でということになる。20代の頃は越路吹雪が好きで日生劇場で毎年開かれていた彼女のリサイタルに何回も通ったものだった。ジバンシーの衣装に身を包んだ彼女の歌声とともに独特の身のこなしをいまでもはっきりと覚えている。ジバンシーも越路吹雪もとっくに鬼籍の人となってしまったが。

ごく最近では、昨年秋にみなとみらいホールで聴いた演奏が絶品だった。大野和士指揮によるベルギー王立歌劇場管弦楽団の演奏、特にラヴェルのボレロには酔いしれた。ひとつの楽器が音を刻み他の楽器の音を引き出していく。それらがやがて管弦楽全体の音になってうねりホール全体に広がっていく。“ラヴェルのボレロ”は何年か前のオリンピックでの氷上の舞を連想させることから、クラシック音楽には全く不案内の私でも完全にそのなかに身をおいて至福のときを過ごすことができた。

自分で演奏して楽しむということでは、20代の頃にマンドリンを弾けるようになりたいと思い習いはじめたことがある。教室に通うことは半年くらいでやめてしまったが、その後も1、2年は一人で暇を見つけてはぽろんぽろんと自己流に弾いて楽しんでいた。その後すっかり忘れていたが、このお題を頂いてから思い出して探してみると、幾度かの引越しの際にも処分できずに物入れの片隅に昔のままのマンドリンが眠っているのが見つかった。まだ弾けるのかどうかも定かでないが、もうちょっと暇ができたら始めてみるのもいいかなという気分になっている。しかし、マンドリンは電子ピアノなどと違って消音できないから周囲から嫌がられることは間違いない。

というわけで、やはり私と音楽との関係は、これからも自分で生み出すというよりは聴いて楽しむものであり続けるのだろう。

(掲載日:2006/06/15)

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