お世話になった数多くの恩師のことを限られた紙面で書くのは、大変むずかしい。そこで、私のカナダ・米国生活時代にお世話になった先生方から頂いた "Words of Wisdom" をいくつか紹介し、学部や大学院で研究している人たちの参考になればと思う。
"Less is More"
これは、ドクターコース時代に私のスーパーバイザーであった Eric Manning 先生がいつも言われていた言葉である。論文を書く上での心構えとして、だらだらと書くのではなく、適切な言葉を用いて、より簡潔で明瞭な説明を与える努力をしましょうというものである。また、今日のように物質的に恵まれすぎている状況に対しても、物質的には多少不自由でも、精神的な豊かさをと説いている。
"Be a Humble Researcher"
これは、最初に勤めたCMU-CSDの学科長をされていた Nico Habermann 教授の言葉。研究者として驕るなかれ、謙虚であれ!ということ。本当に大切な言葉である。彼とは、修士1年生時代に土居範久先生の自宅で初めてお会いし、「君ももっと勉強したら、ぜひCMUに来なさい」と言って頂いた。1983年にジョブインタビューで再びお会いした際に、初めての時の会話を覚えていらして、「(ドクターを)やって来たね!」と開口一番に言われた思い出がある。彼の師匠にあたる E. W. Dijkstra が書いた昔の論文 "The Humble Programmer" (プログラマーよ、謙虚であれ!)をもじってこう言われたのかもしれない。
"素人発想・玄人実装"
これは、私の日記にかつて登場したCMUの金出武雄先生の言葉。彼のリビングルームにこの書が飾られているだけでなく、『素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術』(PHP研究所)という本まで出版されている。なかなか味のある言葉である。私たちの研究分野には、俗に言う「システム屋」といわれる専門家がいる。ソフトウェアであったり、ハードウェアであったり、いろいろなシステムを作り上げる人たちである。これが、時にして玄人発想で、システムを企画し、システムを素人実装してしまうといった大失敗を犯す。この他にも、"メッセージのある研究をしろ" など、金出語録はいくつもこの本に収録されているので、興味のある人は、一読をすすめる。
それにしても、学生時代に数多くの恩師と出会い、名言、至言を直接頂いたことは大変幸運であった。私も迷言でなく、もうすこし "Words of Wisdom" をアドバイスできればと思っている。
(掲載日:2004/11/12)
→アーカイブ