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2004.09.18

空飛ぶ本棚2004 Summer|徳田英幸(政策・メディア研究科委員長)

夏休み中は、かならず飛行機に乗って移動する時間が多くなる。今年も海外の大学や国立研究機関などを訪問する機会を持つことができた。ネットワークロボット研究関連の調査で、ドイツの Univ. of Karlsurhe、スイスの EPFL(Swiss Federal Inst. of Tech. Lausanne), フランスの LAAS-CNRS(French National Organization for Academic Scientific Research)を訪問し、その後、研究室の学生たちと合流して英国の Univ. of Nottingham で開催された UbiComp 2004に参加してきた。

飛行機での移動の際、楽しみにしていることがある。日頃見れない映画を鑑賞することもさることながら、読みたい本をまとめ読みできることである。Pittsburgh に戻った際などは、いつもチェーン店のBやB&Nに行っている。夜11時まで開いているだけでなく、コーヒーを飲みながら本も読めるカフェがついている。

今年は、CMUに戻っている時に、Lawrence Lessigの3冊目にあたる "Free Culture"とSteven Johnsonによる "Emergence"を、Stanford の Bookstore で Donald A. Norman の "Emotional Design"、UbiComp2004 の帰路 London にて Schuler と Day編による "Shaping the Network Society" を購入し、移動しながら読んでいた。

まず、Lessig氏の "Free Culture" は、前作2冊に劣らず、大変読みやすい本であり、ぜひ読まれるといい本である。実は、SFCに戻った際、丁度生協で訳本が平積みされていたのを発見しびっくりした。まだすべてを読み終えていないが、私たちのように研究成果を論文だけでなく Open Source として公開してきたソフトウェア研究者たちにとっては、RMS(Richard M. Stallman)がはじめた Free Software Foundation の "Free" の精神とまったく価値観を同じくするものである。彼もいっているように Free Beer の Free ではなく、Free Society の Freeである。"CODE" から始まり、"The Future of the ideas" へと上位レイヤに進み、自由な文化へのビジョンを述べている。

2冊目の Johnson氏は、私にとっては馴染みのない著者である。実は、春学期に自律分散協調論の授業で紹介していた訳本の原本である。まったく偶然に$14のペーパーバック版を見つけた。自律分散協調システムに興味のある人にお勧めである。ちなみにサブタイトルは "The connected lives of ants, brains, cities, and software" であり、いろいろなシステムにおける創発について概説している。

3冊目の "Emotional Design" は、"The Design of Everyday Things", "Things That Make Us Smart", "Invisible Computer" などの名著で有名な Norman氏の最新作で2004年1月に出版された本である。Stanford の Bookstore では、なぜかマーケッティングのコーナーに置かれていた!「人」と「人」、「人」と「モノ」、「モノ」と「モノ」のコミュニケーションやコラボレーション支援をするユビキタスコンピューティング環境を研究している我々には、Norman氏が説く感情が果たす役割は大変興味ある分析である。

最後の本は、ロンドンの本屋で見つけた MIT Press の本である。全16章あり、別々の人が章を担当している。昨年のORFで "ユビキタス社会のかたち" を議論したが、この本は、いわば "サイバー社会のかたち" をいろいろな角度から論じている。"Smart Mobs" の Rheingold氏も "What Do We Need to Know about the Future We're Creating? Technobiographical Reflections" を書いている。

まだ空飛ぶ本棚2004 Summer は、完読していないが次の機会にも iPod とともに持っていくつもりである。

(掲載日:2004/09/18)

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