MENU
Magazine
2019.12.17

12月の鶴岡|健康マネジメント研究科委員長 武林 亨

定刻から20分遅れ、夕陽に照らされる土曜日の羽田を飛び立った飛行機は、40分後には、早くも庄内空港への着陸態勢に入っていた。すっかり通い慣れた鶴岡への空の旅。「庄内地方悪天候のため、この飛行機は、着陸できなかった場合羽田空港に引き返します」とのアナウンス、強い横風に揺られながら着陸と、冬の時期にはお決まりのフライトも、しかし無事に、機体は冷たい雨の降る夜の庄内空港の滑走路に滑り込んだ。

夜半の寒雷も収まり、この時期には滅多にない穏やかな曇り空となった翌日曜日は、8回目となる「鶴岡みらい健康調査セミナー」の開催だ。人口12万強のこの地で、11,002人もの市民が参加してくれて2012年にスタートしたコホート研究。成果が出るのに時間のかかる疫学調査に快く協力してくださる市民の皆さんとの接点を少しでも増やしたくて始めたセミナーをこの時期の開催するのには理由がある。農作業も一段落となる冬の時期こそ、多くの方にお越しいただけるのだ。取り上げるテーマはさまざまだが、単なる最新知識の伝達だけに終わらないよう、地域の健康づくりのプレイヤーも登壇するのがセミナーの流儀でもある。

今年のテーマは、フレイル予防最前線。といっても難しい医学用語はまったく登場しない。代わりの主役は、高知市発祥の「いきいき百歳体操」である。その内容は至ってシンプル。週に1回、ご近所さんが集まって、椅子に腰掛けDVDを観ながら、ひとそれぞれ10段階の重りを手首や足首に付けてゆっくりと手足を動かす約40分の筋力体操。続けて、噛む力・飲み込む力をアップするかみかみ百歳体操とセットで、およそ一時間半をかけて一緒に時間を共有する。そのまま、お茶会や昼ご飯の会になることが多く、それが楽しみでもあるという。

たったそれだけの体操だが、今や、全国490市町村、13,000箇所もの会場がある。鶴岡市でも、わずか5年で、7会場が112会場にまで拡がっている。いままで運動していなくてもその日から参加できるシンプルさ、正しく続ければ3か月で効果を実感できるようになる人が大半という科学的な側面とともに、「市側は必要なこと以外余計な手出しはしない」、「住民側は支援に頼らず自分たちで立ち上げ運営する」という基本ルールが成功の秘訣であることは、お招きした高知市そして地元鶴岡市の取り組み双方の発表で共通していた。会場はもちろん、DVDデッキまで自分たちで調達しているという。いきいき百歳体操がこれほどまでに支持され全国に拡がり各地で根を下ろしているのも、体操の中身の良さとともに、この原則を曲げずに貫いたからこそだ。

参加者が250名を超えた会場の熱気とともに、住民主体という言葉の本質にあらためて気づかされた、鶴岡での素敵な日曜日の午後だった。

慶應義塾大学鶴岡タウンキャンパス
 

武林 亨 健康マネジメント研究科委員長/教授 教員プロフィール