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2019.12.24

川の国|常任理事/総合政策学部教授 國領 二郎

2019年は、連続してきた台風のせいで、久しぶりにキャンパス周辺の地理をいろいろ考える年になった。すぐ横を通る小出川が氾濫しないかひやひやしたし、相模川はもちろん、引地川や境川など、SFCの周辺には氾濫の歴史がある河川がたくさんある。心配しているうちに慶應内では日吉近辺の多摩川氾濫が大きな騒ぎになって目立たたなくなってしまったが、千葉の停電も含め、大変な被害を被った地域の方々にも思いをはせ、自然への謙虚な気持ちを持つことの重要性を改めて感じた。

単に謙虚であるだけでなく、備えることの大切さも改めて考えたい。今年を生き残れたのは偶然ではなくて、努力の結果だったのだろうと思うからだ。学部長だったころに、キャンパス周辺のことを知ろうと車で通勤の行きかえりにいろいろなルートをつかっていたのだが、その過程で、あちこちで洪水対策の遊水地整備や河川整備をやって下さっていることに気づいた。今までだったら、あれだけの雨だと、キャンパス前のバス停あたりが浸水していたのに、今回は逃れたのはそんな努力の成果に違いない。感謝しなくてはいけない。

少し話が広がるが、車で周辺探索しながら、川がいかに村境を形成し、地域社会を作ってきたか強く感じたことも思いだす。境川は武蔵国と相模国の境だし、小出川は茅ケ崎と寒川町の境になっている。単に行政的な境ではなくて、越える橋の少なさかから、地域を分けている。必ずしも稲作が多くない土地で、川沿いに田が配置されているのも特徴的だ。生活の姿が川によって形作られている。多くの小規模河川が暗渠化してしまった東京では分からない感覚だ。

川がもたらす水の恵みと、脅威と、小出川ぞいの彼岸花などに感じる季節の風景。日本はつくづく川の国だと思う。

 

國領 二郎 慶應義塾常任理事 / 総合政策学部教授 教員プロフィール