教員と学生が、一緒に夕食をつくり、同じ食卓でご飯を食べ、ワークショップを行い、真夜中にバカ話をして盛り上がり、夢を語り合ううちにいつの間にか眠りにつく。SFCにはそんな異色の授業が存在する。夏休み中に行うような研究会合宿ではなく、学期中にSFCに隣接した未来創造塾滞在棟を利用して行われるれっきとした授業である。この「スチューデント・ビルド・キャンパス(SBC)入門」という授業は、小林博人さん、石川初さん、加藤文俊さん、長谷部葉子さん、そして私の5人の教員で担当している。春学期前半に全7回開講され、7回とも滞在棟に宿泊する。初回はオリエンテーション、最終回は全体講評会を行い、その間の5回は5人の教員がそれぞれコーディネートしたワークショップを行う。すべての回に通底するテーマは、同じ空間・同じ時間を共有する滞在型の研究教育について考えることで、それを教員と学生自ら身を持って体験し試行錯誤するという非常にチャレンジングな授業である。
しかし、われわれは今、実環境において同じ空間と時間を極力共有してはいけない状況になっている。「SBC入門」も今学期は完全オンラインで行われることになった。身を持って滞在型研究教育について考える「SBC入門」にとって、実環境の同じ空間と時間を共有することができないことは、翼をもがれた鳥のようなものだ。いくらリアルタイムで長い時間ZOOMを繋いでいても、滞在棟に宿泊することの濃密さに敵うべくもない。そこで、私の担当回は、リアルタイムでオンライン授業をすることをやめた。かといってオンデマンドの動画コンテンツを用意して学生に何かを学ばせるといういうわけでもない。オンキャンパスでもオンラインでもオンデマンドでもでもない、それ以外の同じ空間や時間を共有することの可能性について考える課題を課すことにしたのである。その課題の内容や成果はまた別の機会にご紹介するとして、今日ご紹介したいのは、上記のような課題を学生に説明するときに用いた下記の表である。
実環境と情報環境において、空間と時間のそれぞれが同期していれば「1」を、非同期ならば「0」を割り当てると、「0000」から「1111」まですべての可能性は4ビット、つまり2の4乗なので全部で16パターンあり得る。この16パターンの可能性をここでは仮に「授業形式の枠組み」と呼ぶ。例えば、実環境において人と人が待ち合わせをする場合、空間と時間のどちらかがずれていれば出会うことはない(スマホ世代の方はピンと来ないかもしれませんが)。したがって今原則禁止されているオンキャンパス授業は、実環境の時間と空間どちらも同期しているNo.4、No.8、No.12、No.16に相当する。オンライン授業は、特定の同じ時間に情報環境の特定の空間で同期するのでNo.7、No.8、No.15、No.16に、そしてオンデマンド授業は、実環境の空間と時間は非同期だけど、情報環境の授業サイトURLは同期した上で録画された動画コンテンツをみるのでNo.5、No.6に相当する。
「SBC入門」の私の担当回では、それ以外のNoの可能性について考えてみたかったのである。このように、「授業形式の枠組み」を仮定して、すべての可能性を列挙しておけば、オンラインとオンキャンパスのどちらがいいかというような二項対立に陥ることなく、両者を止揚して1段階メタレベルから思考することができる。それによって、コロナ禍後もグラデーショナルな選択肢を適材適所選んでいけるのではないかと考えたのだ。ひとつしか選択肢がないのはリスクが高いし、かといって、なんでもよいと取り付く島がない。ある枠組みの中でいくつかの選択肢を持つということが豊かな研究教育の可能性を育むのではないかと思うのである。とはいえ、上記の「授業形式の枠組み」はたたき台として用意したもので、私自身もまだよくわかっていない。皆さんからフィードバックを頂きながら一緒に考えていきたい。