「忙しいでしょう?」とよく聞かれるようになった。あまりうまく答えられない。
15年ほど前、IT(情報技術)ベンチャーの騎手たちの勉強会に参加していた。今では某社の社長になっている人が、勉強会の席で「暇なんで」とよく言っていた。その人のソーシャルメディアを見ると、週末はアウトドアで豪快に遊んでいたし、仕事の手を抜いているようにも見えなかった。それから意識的に「暇なんで」と言うようにしてみたものの、本気で暇だと思えることは私にはなかった。
学部長になったら、以前ほど海外出張には行けないだろうなと考えていた。きっと研究仲間たちが楽しく世界を飛び回っている間、私はキャンパスに張り付いていなくてはならないだろうし、待ち時間が多いとも聞いていたので、今まで読めなかった本を読もうと決めていた。とはいえ、最初の半年間は、それほど不自由もなく、2020年1月の台湾総統選挙を現地で見ることもできた。
新型コロナウイルス感染が拡大すると、当然、海外出張には行けなくなった。3月以降は国内線の飛行機にも新幹線にも乗っていない。キャンパスと都内にいるだけだ。緊急事態宣言の間は散歩と買い物だけで、おとなしくしていた。
しかし、読書はほとんど進まなかった。むしろ、次々と本を買い続け、読めない本が溜まる一方である。仮に多少はキャンパスに戻れるようになったら、業務時間外の息抜きにと思ってプラモデルを買ったが、積んだままである。オンラインで授業は続き、学内外のオンライン会議も続く。夏休みも何をしていたのか記憶にない。
一番好きな季節は秋なのだが、毎年、秋を楽しまないまま冬になっていて後悔する。今年はきっと秋を楽しめると思っていたのに、いつの間にか11月が終わることに気づいたある日、U課長が部屋にやってきた。めずらしいなと思ったら、プレゼントをくれた。自分で撮ったキャンパスの写真をデスクカレンダーにしたという。素晴らしいできばえだ。1月から毎月の写真を楽しもう。
もう12月になった。今年は12月で授業が終わる。採点の後はいよいよ入試の季節だ。SFCの31回目の入試にして最大の危機ではないだろうか。
文部科学省、全塾、そして学部でいろいろな可能性を検討している。おそらく、これで完璧という対応はない。日本中の大学が苦悩しているはずだ。しかし、やらないわけにはいかない。受験生とその家族、教職員とその家族、みんなの安全を考えている今、「暇なんで」とはさすがに言えなくなった。
2020年の元旦は、遠藤地区新年会に出席し、帰りに浅間神社で入試の志願者が減りませんようにとお願いしていたが、来年元旦の新年会は取りやめになった。元旦にはキャンパスに来ないので、今のうちにと思い、志願者数は気にしないので、安全でありますようにと祈願しておいた。
受験生の皆さん、もしこれを読んでいたら、2月17日(総合政策学部入試日)、18日(環境情報学部入試日)、万全の体調で試験会場に来てください。皆さんが全力で試験に臨んでくださるのを待っています。