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2021.08.17

危機と好機|総合政策学部長 加茂 具樹

学部長としての任期がはじまった八月一日の朝、私は学部の同僚にこんな挨拶文をメールで送った。

「コロナは大きな危機でもありますが、好機でもあるはずです。歴史をふり返ると、社会が混乱し危機に陥ったときに、新しい考え方をもって社会を牽引する個人や集団が現れるように思います。そして総合政策学部とSFCはその一翼を担えるのか。そんなことを考えています」。

この「危機と好機」という考え方は、私の海外の研究仲間からもらったものだ。仲間の多くは、「変化にどう向き合うか」という問題を考えるとき、きまって 危機=危険+機会 という観点を示してから話をはじめる。私は、危機を機会に転じさせようとする貪欲さと、危機を好機と受け止めようとする柔軟さ、を組み合わせたこの考え方が好きだ。

私たちはいま、新型コロナ感染症のパンデミックからはじまった危機と向き合っている。この危機をどの様にして好機にするのか。

いま目の前にある危機は前例がなさそうだ。パンデミックは、以前から存在していた危機を急速に顕在化させている。相互依存が深まった社会では、一つの危機は連鎖してあっというまに拡散する。複雑になった社会では、学問の専門分野の細分化が進んできたが、いま社会が必要としていることは、深い専門的知識を踏まえながらも知識を協調させて全体を俯瞰できる視座だろう。課題は多い。だからこそ、「政策を考える」ために学際的な領域に踏み込む学問を追究してきた総合政策学部とSFCの出番が来た、という声が聞こえそうだ。

しかし話はそんな簡単ではないだろう。パンデミック後に、パンデミック前の世界に戻ることはない。だから私たちは変わらなくてはいけない。よくわからない未来への備えが求められるなかで、どこに学部とSFCの好機を見出すのか。危機を機会に転じさせようという貪欲さと、危機を好機と受け止めようという柔軟さを踏まえて、新しい考え方を模索してみたい。私たちにとって、こんなことを考える機会に巡り会ったことが、そもそも好機なのだろう。

八月一日付で常任理事に就任した土屋大洋前総合政策学部長を継いで、総合政策学部長に就任した。常任理事の土屋大洋先生と連携しながら、SFCの環境情報学部、看護医療学部、政策・メディア研究科、健康マネジメント研究科と共働して、キャンパスの発展に尽力したい。

なによりも直面している課題を一人で解くことはできません。どうぞよろしくお願い致します。

加茂 具樹 総合政策学部長/教授 教員プロフィール