1年半ぶりに飛行機に乗った。時節柄、身構えて行くが、空港も機内もそれほど緊張感はない。しかし、コンコースの免税店の多くは閉じており、乗客は少ない。到着したニューヨークのジョン・F・ケネディ空港では入国審査や税関を意外なほどスムーズに通り抜ける。
車はマンハッタンではなく北に向かう。小一時間走ると緑の多い地区に入る。ジョン・F・ケネディ大統領の母親が卒業したマンハッタンビル・カレッジが見えてくれば、目的地はすぐそこだ。
おそらく15年ぶりに慶應義塾ニューヨーク学院に着いた。全く記憶が甦ってこない。前回来た時は、各学部による説明会で、私は総合政策学部の説明を担当した。生徒たちに説明して、学院長や教職員の皆さんとの懇親会に出た記憶はあるのだが、校舎や寮などを見た記憶はない。今回、ゆっくり見せてもらって、こうなっていたのかと感心する。
慶應義塾ニューヨーク学院が開設されたのは湘南藤沢キャンパス(SFC)と同じ1990年だ。構想したのは当時の石川忠雄塾長。ホールには石川塾長の写真が掲げられている。
SFCと同じく、2020年に創立30年を迎えたニューヨーク学院は、新型コロナウイルスの感染拡大で、それを盛大に祝うことはできなかった。創立25年の時に作られた冊子を見ると、高校生たちが活き活きと学んでいる写真で溢れている。
新学期開始に向けてたくさんの教職員と話をした。皆さんそれぞれの熱い思いを伝えてくださる。いったんは学院を去ることにした教員のひとりは戻ってきたいと言ってくれた。専任から非常勤に引いた古参教員が突然飛び込んできて、30年分の思いを30分間にわたって熱弁してくれた。最初は苦い顔をして話をしてくれた教員も、数日後には少し笑顔で話してくれる。
学院の理事の皆さんとも話をした。特に、卒業生でありながら理事を務めてくださっているお二人は熱心に今後の方針にアドバイスをしてくださった。そして、保護者も一人、訪ねて来てくださった。聞くと、同じ学部の同期だとわかった。共通の友人がいる。
そして、主役の新入生と在校生が、日本その他からキャンパスに続々と到着する。新入生は親元を離れた寮生活に少し不安を感じているだろう。在校生たちは久しぶりの友人との再会に楽しそうだ。
9月7日、スピーカーズ・ホールで入学式を行った。ディーンと呼ばれる幹部教員たちとともに壇上に上がる。全員、おそろいの慶應ニューヨーク学院特製マスクを付けている。残念ながら生徒たちはホールにいない。寮のそれぞれの部屋からネット中継を見てくれているはずだ。伊藤公平塾長も力強いビデオ・メッセージを寄せてくれた。
若い生徒たちはいくら食べてもお腹が空いているという。学院長を支援してくれているアイビーさんの発案で、寮の生徒たちにピザを差し入れる。そして20時、新入生・在校生全員にオンラインに集まってもらった。たくさんの顔がスクリーンに並ぶ。ディーンたちを一人ずつ紹介した後、対話の始まりだ。
生徒たちはドキドキしたような顔が多い。「初回の授業の教室がわかりません。」「授業に何を持って行けば良いですか。」「グランドで運動をして良いですか。」次々と飛び出してくる質問にディーンたちがニコニコしながら答えてくれる。慶應義塾高等学校から赴任してくれた山本先生も張り切っている。
たっぷり1時間の対話の後、フーッと溜め息が出る。翌日からの授業は大丈夫だろう。ニューヨーク学院とSFCは、同じ時期に開設された双子のキャンパスのようなものだ。どちらも緑が多く、チャレンジ精神に溢れたキャンパスだ。両方を見守るのがしばらくは私の仕事だ。できるだけ早くまたニューヨーク学院に戻ってこよう(感染が収束し、帰国後の2週間隔離が早く終わってくれればもっと頻繁に行けるのに)。