言語は「窓」と同じだ。窓の位置が異なれば見える風景が違う。新しい言語を学ぶと知らなかった風景が見えてくる。C1やB 2レベル(注1)に到達していなくても、ほんの少し勉強するだけで、驚くほど視野は広がる。知らなかった考え方・見方の射程がぐんと広がる。
SFCで提供されている言語コミュニケーション科目の語種は11種類。そこに留学生の母語も含めると、キャンパスには優に20語種を超える言語話者がいることになる。湘南の地に拠点を持つSFCキャンパスは、さながら多言語多文化社会の縮図だと思う。「言コミ科目」は必修かつ進級要件だから、学生たちは必ず何らかの言語を履修していることになる。
外国語学習で「へぇー、○○語ではこんなふうに考えるんだ」という発見。身に覚えのある人も多いだろう。言語が異なれば、そこに表象される思考も文化的背景も当然違ってくる。母語以外の言語を知る(学ぶ)ことは、他者の視座を知ることにつながる。AIによる自動翻訳の機能がどんなにあがっても、この点が揺らぐとは思えない。
考えてみれば、授業でプロジェクト型のグループワークをおこなえば、それは異なる「窓」を持つ学生たちが集う場となる。一緒に議論することで知らなかった他者の「窓」の風景に気付く。「こんなロジックもあるのだな」という認識が生まれ、自分の「窓」をあらためて相対化して考えることにつながる。ひとりひとりがこのような多様性を認識できるのが複言語・複文化社会。その縮図が、SFCキャンパスにはあると思う。
コロナ禍がもたらしたオンライン上のキャンパスライフは2年目に突入し、今や世界中の研究・教育機関と躊躇なく接続してゲストレクチャーを迎えたり、国際学会やシンポジウムにもクリックひとつで参加できる日常がある。多言語社会はサイバー空間を共有して一挙に我々の眼前に広がりを見せる。学生が遭遇する問題発見・解決の課題は、今後ますます複合的要素を孕んだ形で迫ってくるだろう。
もうすぐ新学期。言語コミュニケーション科目の履修が、学生たちの柔軟かつ広い視野を育てる「窓」になることを皆が認識できるといいな、と思う。
注1)CEFR(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment:ヨーロッパ参照枠)で定める外国語運用能力の評価基準。初級から上級までA1, A2, B1, B2, C1, C2のレベル区分。
図1: ドイツのボン大学ゲストハウスの窓から見た風景(撮影は筆者による)
図2: ドイツのデッサウ・バウハウス校舎の窓から見た風景(同上)
図3: ドイツのワイマール「アンナ・アマリア図書館」の窓から見た風景(同上)