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2021.10.12

SFCに隣接した新しい公園|環境情報学部長 一ノ瀬 友博

一ノ瀬先生.jpgSFCに隣接して公園が造られているのを皆さんご存じだろうか。遠藤笹窪谷公園(現時点では仮称)と呼ばれていて、看護医療学部・健康マネジメント研究科の校舎の奥に造成されている。2021年度末までに概ね工事が終了し、22年度の後半には開園予定とのことである。19年度末からのコロナ禍で、学生も教員もあまりキャンパスに来られない日々が続いているので、皆さん、ほとんど気がついていないかもしれない。いや、総合政策学部・環境情報学部・政策・メディア研究科に所属する学生、教員は、もともとめったにここには足を運ばない。私が担当する授業で、学生たちを連れて行くが、ほとんどの学生はこんなところがあるなんて知らなかったと言う。

この公園が位置する遠藤笹窪谷は、藤沢市に残る三大谷戸の一つである。そもそも「谷戸(やと)」とは、丘陵地が浸食されてできた細長い谷状の地形で、「谷津(やつ)」とも呼ばれる。茅ヶ崎市には、清水谷(しみずやと)という地名があり、谷の一文字で「やと」と読む場合もある。谷戸は、関東地方の各地に普通に見られる地形で、低い谷の部分は田んぼとして、両脇の斜面は雑木林として使われてきた。遠藤笹窪谷では、SFCが開設するよりずっと前から耕作が放棄されてしまっていたが、かつては稲作がなされていた。この水田と斜面林のセットはいわゆる里山の環境を形作っていて、身近な生き物たちの宝庫である。遠藤笹窪谷は、藤沢市の生物多様性を支える重要な拠点となっている。その一角に整備されつつあるのが、新しい公園なのである。豊かな自然に配慮しつつ、市民が緑や水により親しめるようにデザインされているようだ。

この公園にはSFCにとってとりわけ重要な機能がある。それは洪水防止である。慶応大学前のバスターミナルがある交差点は、三つの谷が交叉する場所である。遠藤笹窪谷から湘南慶育病院の脇を通って、藤沢市と茅ヶ崎市の境界を西に下っていく小出川は、その流下能力が低く、集中豪雨の際には十分に雨水を排出できずに、交差点一帯が冠水してしまうことがある。数年前の豪雨では郵便局が浸水被害に遭い、数ヶ月間ATMが使用不能になった。新しい公園は、遠藤笹窪谷からの雨水を一時的に貯水する機能も併せ持つ。公園でありながら洪水も防止してくれるというわけだ。どのような集中豪雨でも大丈夫というわけではないが、これまでより洪水のリスクが軽減する。このようなインフラを近年は「グリーンインフラ」と呼び、自然の力を活かした新しいインフラとされる。

と、ここまでまるでいつも書いているかのように綴ってきたが、10月1日から環境情報学部長を務めることになり、これが私にとって初めてのおかしら日記である。公園の紹介にかこつけて、研究会のテーマをちゃっかり宣伝してしまった。

一ノ瀬 友博 環境情報学部長/教授 教員プロフィール