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2021.12.14

30 by 30|環境情報学部長 一ノ瀬 友博

タイトルの30 by 30という言葉をご存じだろうか。「サーティ・バイ・サーティ」と読む。2030年までに地球の陸域と海域の30%以上を自然保護区として守ろうというものである。先の11月にはイギリスのグラスゴーで気候変動枠組条約第26回締約国会議(いわゆるCOP26)が開催されたびたび報道されたが、30 by 30は、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)に関連する目標である。COP15は中国を議長国として10月に第一部が開催され、第二部が来年の4月末から5月に開催される予定である。

2010年にCOP10が名古屋市で開催され、2020年までの目標である愛知ターゲットが採択された。生物多様性条約は2年に一度締約国会議が開催されるので、本来は2020年にCOP15が開催され、次の目標を採択することになっていたが、COVID-19のパンデミックのため1年以上延期されての開催となった。愛知ターゲットは20の目標からなるが、日本を含めほとんどの国が2020年までにその目標を達成できなかった。地球規模の気候変動が大きな耳目を集めるようになったが、生物多様性喪失も人類の存続のための喫緊の課題である。生物が絶滅していくスピードにまずブレーキをかけようと提案されているが30 by 30で、せめて30%の自然保護区を確保しようということである。来年議論されるCOP15において世界目標となる可能性が高いとされている。

日本はどのような状況なのだろうか。現在の日本の自然保護区は陸域が20.5%、海域が13.3%である。するとあと8年ぐらいで陸では10%、海では17%の積み増しをしなければならない。海域ではこれまで保護の対象とされていなかった区域に保護区を広げていくことになるだろうが、陸域で10%増やすことは容易ではない。この目標の達成のために切り札になるのではないかと議論されているが、OECMという考え方である。これは、Other Effective area-based Conservation Measuresという言葉の頭文字を取ったもので、まだ定まった和訳がないが、「自然保護区とはなっていないが、実質的に自然が保護されている地域」というような意味で使われる。例えば、里山と呼ばれるような農業によって形成された環境に多くの生物が見られるように、結果として自然保護に寄与するものである。このOECMをどのように位置づけ生物多様性保全を進めるのか昨年度から環境省で議論が始まっていて、私は検討会の委員として加わっている。

気候変動については、カーボンニュートラルが企業にも求められるようになり、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の要請への対応が急務となっている。生物多様性についても国外では急速に議論が進んでいて、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が今年の夏からスタートしている。日本国内では気候変動ほど知名度がない生物多様性であるが、来年度早々のCOP15の交渉にも注目していただきたい。

一ノ瀬 友博 環境情報学部長/教授 教員プロフィール