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2022.12.19

『総合政策学をひらく』の書影|総合政策学部長 加茂 具樹

これまで、様々な書籍を著者や編著者として刊行する機会に恵まれてきた。そのたびにいつも思うことは、書籍というのは、原稿の執筆にはじまる様々な過程を経て、様々な方々との共働があって、ようやく刊行されるということだ。

『総合政策学をひらく』であれば、この叢書を刊行しようと考えた教員たち(編集委員会)がいる。その後、一本一本の論文の執筆者、一つの巻ごとに編者がいる(本叢書の場合は、各巻二名で合計十人)。執筆者と編者が共働する。そして各巻には出版社の編集者がいて、巻ごとに編者と編集者が共働して、担当する巻を取りまとめる。さらに、学部とキャンパスとしての取り組みである本叢書は、大学職員の皆さんが、その成果を広く発信するための取り組みを担当している。叢書のウェブサイト『総合政策学をひらく』は、ある職員の尽力があって運営されている。

こうして一つの「書籍」の刊行には、長い時間が必要であり、その過程で沢山の共働がある。書籍刊行に至るまでの「道」のなかで、とくに楽しみなことが刊行する書籍のカバー(書影)を検討する過程だ。書籍のカバーには書籍の「精神」が体現されている。

叢書『総合政策学をひらく』は、五つの巻によって構成されている。各巻、すなわち『流動する世界秩序とグローバルガバナンス』、『言語文化とコミュニケーション』、『社会イノベーションの方法と実践』、『公共政策と変わる法制度』、『総合政策学の方法論的展開』は、現在の時点で、総合政策学という学問をかたちづくると認識している領域である。


この各領域は、現在、学部とキャンパスに所属する教員が、社会の課題として取り組まなければならないと認識している政策問題(policy question)だ、と表現してもよいだろう。したがって本叢書の五巻の構成は、十年後、いやもしかしたら五年後には古くなっているかもしれない。五年や十年も経てば、問いは変わるだろう。もちろん変わらない問いもある。いずれにしても、総合政策学は、常に社会の変化、問題の変化に適応する、という考え方を備えていなければいけないことになる。『総合政策学をひらく』と二十年前に刊行した『総合政策学の最先端』を比較すると、時間の経過と政策問題の変化が見えてくるかもしれない。

この五巻は、それぞれに独立した総合政策学をかたちづくる学問領域が示されている。しかし、五巻には共通しているものがある。それが、本叢書の五巻の表紙に表れている。「人間」である。私と出版社が、各巻の書影案を作成した後、編者に表紙を検討してもらった。いかにもダメな話しだが、当初、私たちは各巻の書影に共通するモノがあることを想定していなかった。しかし結果的に、そこには「人間」がいた。

よく考えると、それはあたりまえかもしれない。この「人間」は、総合政策学、環境情報学をはじめ、キャンパスの学問を説明することばに常に織り込まれていた。キャンパス開設直前に刊行されたキャンパスのパンフレットがある。

SFC開設時パンフレット表紙

加藤寛・初代総合政策学部長と相磯英夫・初代環境情報学部長は、それぞれ「慶應義塾SFCを志望する諸君へ」と題する短文を寄せていた。加藤学部長は「政策」についての次のように説明していた。「政策というとすぐ国の政策を思い浮かべますが、ここでいう政策とは人間が何らかの行動をするために選択し、決断します」。相磯学部長は、環境情報学部を次のように説明していた。「人間と人間をとりまく環境、それらに大きな影響をあたえる情報との関わり合いを学び、自ら問題を発見・解決できる能力を養い、将来の情報社会の広い視野で中心的な役割を果たす人材の育成を目指しています」。

叢書『総合政策学をひらく』の刊行作業は、学部とキャンパスの創設時の思想を確認する取り組みだが、書影の選定でもそう感じた。2022年11月20日と21日に湘南藤沢キャンパスでORFが開催された。20日の午前に、 セッション「SFC30 総合政策学をひらく」を設けた。沢山の在校生、企業関係者のみなさん、SFCで学ぼうと考えている高校生がセッションに足を運んでくれた。その数の多さが嬉しかった。同時に、同級生や後輩達(つまり卒業生)の懐かしい顔があった。かつて、ともに学んだΩの教室で、もう一度会い、「総合政策学とは何か」の議論を共有できたことはとても嬉しい。本当に楽しい。

加茂 具樹 総合政策学部長/教授 教員プロフィール