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2023.06.20

一粒万倍|健康マネジメント研究科 公衆衛生・スポーツ健康科学専攻長 前田 正一

前回同様に筆が進まずに困っている。休憩がてらインターネットの検索窓に「今日は何の日」と入力してみると「一粒万倍日」と出てきた。
これは文字通り一粒の籾(もみ)が万粒になる日という意味であるらしく、この日に始めたことは、よいこともそうでないないことも万倍増するということのようである。インターネット上の説明では、この日に宝くじを購入するとよいとか、この日に借金をするのはよくないとか、いろいろなことが書かれている。この説明を読んだとき、若き日に宝くじを購入した際の出来事を思い出した。
それはある雨の日のことである。外出先で雨がひどくなったためバスに乗車しようと考え、小銭を取り出そうと財布の中を確認したところ、1万円札しか入っていなかった。小銭か千円札を入手しなければと思い、辺りを見渡していると、バス停のすぐそばに宝くじ売り場があった。宝くじを買う習慣のない私にとっては1枚のみを購入することなどできるのかと思いながらも、売り場の方に尋ねてみると可能ということだったので、1枚(確か1枚100円か200円だった思う)購入し、その後無事にバスに乗車した。
その宝くじであるが、それから随分と時間が経過したある日、たまたま宝くじに関するコマーシャルを見て、あの雨の日のことを思い出した。当選することなどはないと思い込んでいても、確めてみようという気になったのか、当選番号を確認してみた。すると、なんと(1億円には到底及ばないものの)確か数万円が当たっていた!

もしかしたらあの日は、「一粒万倍日」だったのかもしれない。宝くじ購入にまつわる、まだ若い頃の出来事を思い出し、筆が進まなかった憂鬱な気分から解放されつつある。

一粒万倍日といえば、もう一つ。私は、自宅の小々々々空間を活用して、常時、季節の植物を栽培している。前回も少し書いたように、一昨年にはお正月飾りに付いていた稲穂を保存しておき、暖かくなった5月ころに籾をまいてみた。たしか3粒ほどの籾が発芽し、秋にはおよそ1000粒の籾を収穫できた記憶がある。昨年は、その籾を利用して30ほどの苗を、今年も同じく30ほどの苗を作り、先月、水田に見立てた、保水可能な容器に移植した(3つほどの苗をひとまとまりにして植え付けるため、まとまりとしては10ほど)。今計算してみると、自宅の小空間でも籾は2年間で「一粒万倍」になるようだ!

ちなみに私は、こうした植物を自宅の入口付近にも置いていて、置く植物を時々入れ替えている。出勤時や帰宅時に観察し成長の様子を確認できるとうれしくなる。通行人の方の中にも見てくれている方がいるようであり、つい最近も、たまたま遭遇した見知らぬ老淑女が声をかけてくれた。「これはお米ですか?いつも、いろんなお花を楽しませてもらっています」と。そうした方々の中には、その後、交流が始まる方もいて、今では、季節の食べ物などをお裾分けしていただいくこともある。私の故郷(九州の田舎)とは異なり、都心では、隣人の方でも言葉を交わすことがないことがあり、通りがかりの見知らぬ人と会話をすることなどはほとんどない。お正月飾りに付いていた籾は、その数が万倍になっただけではなく、私の人的交流など、籾以外のものも増やしてくれたようだ。

一昨日、修士課程学生の研究指導体制を検討する会議があった。この後、いくつかの会議体での審議を経て、間もなく指導体制が確定し、学生たちは本格的に修士論文研究を開始する。この日は学生たちにとっての「一粒万倍日」になることであろうし、そうなるように我々教員も努めなければならない。教員にとっては、学生の成長の様子を観察できることは、本当にうれしいものである。そして学生たちには、毎日が「一粒万倍日」であり多方面への発展の可能性があることを信じて、学習に、研究に、そして人々との交流に精を出してほしい。

ということで、検索エンジンでの検索からはじまった、とりとめもない、今日(2023.6.17)の日記でした。

前田 正一 健康マネジメント研究科 公衆衛生・スポーツ健康科学専攻長/教員プロフィール

*SFCの革命者(アーカイブ):https://www.sfc.keio.ac.jp/vanguard/002959.html