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2023.07.05

「総合政策学をひらく」の向こう側|総合政策学部長 加茂 具樹

学部長として学部を説明する機会は少なくない。その都度、ある著名な国際政治学者がのこした、「『書く』ことは自己の立場を明確にさせ、したがって自己をコミットすることである」という言葉を思い出す。学部長の職務として「総合政策学とは何か」を語る機会の度に、学部に対する理解は、より明確に、より深くなる。

総合政策学とは何か。加藤寛初代学部長は、次のように語っていた。「総合政策学部は、未来を切り拓くための政策を考えようという学部であります。政策というとすぐ国の政策を思い浮かべますが、ここでいう政策とは人間が何らかの行動をするために選択肢、決断することを意味します。政府の政策もあります。企業のとるべき決断もあります。国際社会の中での選択もあります。」加藤学部長は総合政策学部を「政策を考える学部」と説明していた。

つづけて総合政策学の「総合」の意味を次のように説明していた。それは、まるで学生を煽るような言葉だった。「既存の学問は知識をあたえてくれましたが、残念ながら、どう行動すべきかを教えてくれませんでした。それは、人間の選択・行動は部分的ではなく総合的でなければならないのに、あまりにも分析的・縦割り的でありすぎて総合的な判断ができなかったためです。だから社会にでると大学教育は役に立たないと極言さえされました」。学部二期生だった私は、素直に煽られたことをよく覚えている。この言葉に突き動かされるように、自らのアイデンティティーを確立していたように思う。

あれから三〇年余が経過した。総合政策学部はいま、みずからの存在をより豊かな言葉で説明する必要性に迫られている。

私たちが実感していることは、社会の秩序は変化するということである。もちろん三〇年前もそうだったかもしれない。だから総合政策学という学問が三〇年前に生まれたのであろう。私が専門としている現代中国政治研究においても、三〇年という時間は、変化の大きさを強く印象づける。

「変化」とは、これまで社会全体で共有し、当然とされていた価値や利益の流動を指す。だからこそ私たちが直面している問題の多くは、既存の解決方法を受け入れず、新しい思考を要求している。政策を考える、つまり未来を構想するための学問は、常に変化を求められている。 新しい秩序の萌芽が、既存の秩序が後退してゆく過程に立ち現れるのだとすれば、いまの変化を軽視してはいけない。

総合政策学部は、こうした認識をふまえて、個々の先端的な学問領域に通暁しつつも、それを総合的に捉え直して、学際領域に踏み込む学問をおしすすめてきた。総合政策学、そしてSFCが魅力的であるのは、社会の変化に適応、いやその先を歩もうとする考え方を備えているからである。

総合政策学部は、2023年3月にブックシリーズ「総合政策学をひらく」(5巻)を刊行し、総合政策学部創設から三〇年余を経た現在の総合政策学の現在の姿を示した。このシリーズと創設10年に際して刊行した『総合政策学の最先端』の4巻と比較すると、二〇年間総合政策学の変化の軌跡を捉えることも可能だ。

いま私たちは、総合政策学を流動的で複合的な社会の問題、すなわち政策課題をまえに、実践的な取り組みをつうじて知の蓄積を図ろうとする「実践知の学問」として捉えている。

「実践知の学問」の姿はどこに現れているのか。それはブックシリーズ「総合政策学をひらく」の各論考に展開しているが、私たちは、いま一つの領域にその姿を見出そうとしている。そこに次の総合政策学の展開の起点がある。次回以降の「おかしら日記」で詳論したい。

総合政策学をひらく - 慶應義塾大学SFC - Keio University

加茂 具樹 総合政策学部長/教授 教員プロフィール