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2023.07.25

わが心の梅ちゃん先生|看護医療学部長 武田 祐子

梅ちゃん先生をご存じでしょうか。10年以上前になりますが、戦後の東京蒲田を舞台に地域医療に取り組んだ町医者である梅子をヒロインとして高視聴率を得た、2012年に放映されたNHKの朝ドラです。家族、友人、地域の人々に寄り添い、ひたむきに生き、勇気を与える存在として描かれ、東日本大震災の復興支援プロジェクトの一環としても位置づけられていました。

私にとっての梅ちゃん先生は、母の義姉にあたる伯母で女医としての生涯を全うしました。家族が体調を崩せば、いつでも黒い鞄を持って往診してくれました。私が高校の時には父の転勤で両親が遠方に住んでおり、私が外出先で急性腹症を発症した時も伯母が駆けつけてくれました。その温かな笑顔を見てどんなに心強かったことか。

伯母は医師として多忙な日々を送りながらも家族をとても大切にしていました。正月には、祖父母と義姉妹の家族の総勢15名が実家で三が日を過ごし、その寝食を一手に引き受けて切り盛りしていたのが伯母でした。今から考えるとどんなに大変であったことかと思いますが、当時は美味しいご馳走と従姉妹兄弟との楽しい時間が待ち遠しく、そのおかげで今でもいとこ同士の仲が良く、感謝しかありません。

私自身は医療者としての道を考えていたわけではないのですが、ひょんなことから看護学部に入学することになり、折々に伯母が看護の大切さを話してくれたり、励ましてくれたりしました。私の母は専業主婦であり、働く女性のモデルとして尊敬する伯母が私の仕事を喜び、温かく見守ってくれたことが、継続の大きな動機付けとなっていたように思います。

冒頭に紹介した梅ちゃん先生ですが、実在のモデルはなく、東邦大学医学部医学科の前身「帝国女子医学薬学専門学校」の資料を参考に、ヒロインと同年代に入学した蒲田医師会の女医達の体験が台本作りに反映されているそうです。番組のエンディングには「わが街の梅ちゃん先生」のタイトルで、現役女性医師の写真が綴られていましたが、自身の体験を熱心に語り、台本作りに大いに貢献した伯母は、第一回「わが街の梅ちゃん先生」として紹介されました。

大田区のクリニックは閉じることなく伯母は最期まで地域の人々の健康に心を配り、今年2月には不帰の客となりました。伯母の笑顔を思い浮かべるたびに勇気づけられ、「明るく元気に」心が温かくなるのを感じます。


武田 祐子 看護医療学部長/教授 教員プロフィール