おいしいごはん(お米)があれば、他に何も要らない。
この数年、縁があって鳥取県の西部地域をフィールドとして、私たちのラボ(Sociable Robots Lab.)の様々な研究成果を持ち込み、社会実装を前提とした実証的な議論をさせていただいている。
最初のフィールドは境港市にある境夢みなとターミナル。鳥取県が進めるローカル5G実証実験プロジェクト(Withコロナにおけるローカル5G有用性実証プロジェクト)のなかで、「Tech×クラシックで実現するニューエクスペリエンスコンサート」実現のお手伝いをした。2021年にスタートしたこの企画も、コロナ禍のなか、1度ならず2度3度と実証実験が延期。1年以上待った2022年2月にようやく、客船ターミナルを会場としたクラシックコンサートを開催することができた。私たちは「空間超越が可能にするエクスペリエンス」を謳い、VR空間と現実のコンサート会場を自由に行き来することが可能な、空間超越型ライブビューイングシステムを構築した。このとき収録された、MRギアを装着したピアニストとヴァイオリニストが両空間の観客と交流しつつ演奏する映像は、おそらく世界初のコンテンツだ。
私たちと鳥取を繋ぐキーパーソンのひとりが、SFCでオープンデザイン実践という科目を一緒に開講している瀧田先生(WebDINO Japan代表理事)。折々に未来構想キャンプを話題にしていたこともあり、2022年の夏には、鳥取県とWebDINO Japanの協力のもと、未来構想キャンプin大山が実現、「XRとロボティクスで街の近未来を描く」をテーマにワークショップを開催した。フィールドを大山周辺としたこともあって、ターゲットは観光と産業。未来構想キャンプを挟んで10日間ほど現地に滞在し、高校生や高専生、そして地域のステークホルダの皆さんと、リアルな街の未来像をプロトタイピングした。
ちなみに、まだまだ制約のあるなかでの開催で、県からの支援もあったので、全ての参加者がホテルの部屋をシングルユースするという、史上もっとも贅沢な環境での未来構想キャンプであったことは、秘密。
そして今年、2023年のフィールドとして選んだのは、島根・岡山・広島の3県と接する日南町。ひとり暮らしでのヘルスケアをXRとロボティクスで支援するプロジェクトを新たに立ち上げた。日南町が抱える大きな社会問題のひとつが「高齢化」である。日南町の高齢化率は実に51.2%(令和3年1月31日現在)。町には立派な病院もあるが、実際には、医師と看護師、理学療法士の皆さんが何台もの車に分乗して、各家を訪問する訪問診療が行われている。夏の拠点は前年とは打って変わって、町の中心部からさらに山に入った合宿施設。某キャリアの電波はほとんど拾えず、Starlinkでインターネット接続を確保。日々、虫と闘いながらフィールドワークとシステム開発を進めた。滞在序盤には、「ユマニチュード(humanitude)を重視した地域ヘルスケアサービスの創造」をテーマに、2度目の未来構想キャンプin鳥取を開催。今年は2泊3日で過去最長。各地から集まった高校生と高専生に、進行中の4つのプロジェクトに関わってもらった。
フィールドワークの中心は前述の日南病院。病院スタッフの皆さんも訪問診療先の皆さんも、視察のときから私たちを本当に温かく迎えてくれた。病院スタッフの皆さんからは、ご自身の長年の経験の中で得られた貴重な知見、そして診療・リハビリに関わる具体的なアイデアを、包み隠さず提供していただいた。真に自分事として関わってくれた。滞在中、よそ者という目で見られたことは一度もない。滞在終盤、改めて病院を訪問し今回の成果をデモンストレーションする機会をいただいた際も、皆さんお忙しいなか時間を作って集まってくださり、次の段階へ向けて親身に私たちの相談にのってくださった。心から感謝。
そして今月。
ORF期間(11月23日から26日)に合わせて再度、日南町を訪問。改めてフィールドワークを実施し、夏からのアップデートを病院スタッフの皆さんに説明させてもらった。ついでとばかり、日南町役場交流ホールをお借りして、ORFの鳥取サテライト会場を設営した。SFCの会場とは常時中継で結び、日南町の方々とキャンパス来場者の両者に向けてプロジェクトの成果を報告した。私はORF 2日目(26日)の朝からキャンパスでイベントがあったため、25日の夜までしか滞在できなかったが、ORF初日には日南町の会場からミニセッションをSFCの会場に向けて配信することもできた。
ORFをキャンパスに戻した首謀者は私だ。と同時に、キャンパスに籠もる必要はないとも思っている。TTCKはもちろん、日本全国、世界中、様々な拠点やフィールドで活動している教員も多い。今回は実験的な試みではあったけれど、そんなサテライト拠点を全部中継で結んで展示をすれば、ORFはもっと楽しくなる。
で、冒頭のお米。実は、日南町は日本有数の美味しいお米(コシヒカリ)の産地だ。あのヤンマーマルシェが「ヤンマーこだわりのお米」として認定したことで、さらに有名になった。日南町は標高が500メートルほどの高さにあって、この高い標高が生み出す昼と夜の寒暖差で、お米が美味しくなるのだそう。水田を豊に潤す日野川の水も大事。周囲の山々からの雪解け水はミネラルも豊富で、お米の成長には欠かせないのだとか。現地でごはんの美味しさに衝撃を受けた私は、訪問の度に道の駅で「海と天地のめぐみ米」を買って、大事に抱えて飛行機に乗っている(ステマではありません)。日南町に限らず、鳥取県西部は水が美味しく、お酒も美味い。地ビールも。本当はお米も日南町のお水で炊きたいけど、さすがにそれは難しい。やはり現地で食べるのが一番なのかも。
この原稿は、日南町での滞在(ORFの日程)が終わった直後に書いている。実は、今回もワクワクしながら現地入りしたのだけど、新米の時期でいつも以上に人気があったからなのか、いつもの道の駅では全て売り切れていて、号泣。予定が詰まっていて他で探す時間もなく、諦めて帰京。これだけが今回の心残り。
次は2月、今度はなによりも先にお米を入手しよう。
P.S. それにしても、米子からのサンライズ出勤(20時過ぎに米子発、列車が遅れて翌朝7時40分に横浜着)はしんどい。時差のない寝ながらの移動は、脳がバグります。なぜ、昨日の夜は米子でご飯食べていたのに今日は朝からキャンパスにいるの?昨日っていつだっけ?といった具合に。切符確保のために、人生初の1ヶ月前10時打ちチャレンジも経験しました(笑
高汐 一紀 大学院政策・メディア研究科委員長/環境情報学部教授 教員プロフィール