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2024.05.28

慶應の森 志津川山林|環境情報学部長 一ノ瀬 友博

ちょうど1年前、2023年5月に公開されたおかしら日記で、少しだけ慶應の森(学校林)について紹介したが、今回はそのうち最大の面積を持つ志津川山林を取り上げたい。志津川山林は慶應の森の全体の4割を占める63haの面積を有する最大の学校林である。志津川という地名は、合併して南三陸町となった旧志津川町に由来する。宮城県の東北部に位置し、リアス式海岸が美しい地域であるが、2011年3月の東日本大震災で甚大な津波被害を受けたことでも知られる。南三陸町は、町の境が全て分水嶺となっている珍しい自治体であるが、志津川山林は石巻市と登米市に隣接している。山林の大部分はスギをはじめとした針葉樹の植林で、標高が高い部分はコナラなどの落葉広葉樹で覆われている。

私の研究会では、SFCサステイナブルキャンパスプログラムの一環で志津川山林での環境モニタリングを開始した。昨年度は、ドローンを用いた全域の空撮、哺乳類、鳥類、昆虫類の調査を6月、8月、1月に実施した。また、1月には東京パワーテクノロジー株式会社の皆さんに同行いただき、樹木が蓄積しているバイオマス量の推定を行うための計測を行った。

図1が1月に空撮した画像を合成したものであるが、緑に見えるのが植林地、白や茶色に見えるのが落葉広葉樹林である。両者のコントラストがよくわかる。哺乳類については、林内に自動撮影カメラを設置し、撮影された画像から種の判別を行ったが、図2にあるような特別天然記念物に指定されているニホンカモシカ、ニホンジカ、ニホンアナグマ、ニホンノウサギなど合計11種が撮影された。以前ツキノワグマが撮影されたことがあるということだが、昨年度は確認できなかった。鳥類についてはクロツグミ、ヤマドリ、センダイムシクイなど、36種が記録された。鳥類については繁殖期の調査は十分にできていなかったので、今後さらに種数は増えると考えられる。昆虫類についてもまだ限られた調査しか実施できていないがスジクワガタなど47種を記録した。これらの調査は2024年度も継続する予定で、このおかしら日記が公開される直前の週末に調査を実施したところである。

志津川山林を含む南三陸地域には、20年前までイヌワシが生息していた。イヌワシは羽を広げると2mを超える大型の猛禽類で、近年繁殖成功率が急激に下がっており絶滅危惧種に指定されている。南三陸地域ではイヌワシ生息環境再生プロジェクトが進められており、学校林もその対象地の一つとして貢献している。南三陸町と慶應義塾は連携協定を結んでおり、みなさんmiraiプロジェクトも進行している。一貫校の生徒が訪問したりと活用が進んでいる。学校林の大部分で携帯の電波が届かないなど、都会とは全く違う環境であるが、豊かな自然環境を実感できる場所である。



南三陸地域イヌワシ生息環境再生プロジェクト協議会
みなさんmiraiプロジェクト

一ノ瀬 友博 環境情報学部長/教授 教員プロフィール