イタリアに魅せられている。どこのカフェに入ってもまずエスプレッソがあるかどうかを確認する。最近ではイタリアン・ポップスやカンツォーネなどをよく聴くようになった。自宅のシャンプー、石鹸、ハミガキ、シェービングクリームなど日用品の多くはイタリア製。ミネラルウォーターもイタリアのもの。これらは、昔ながらの美しいデザインで、何より使っていて気持ちがいい。
初めてイタリアに足を踏み入れたのは2010年。人口減少地域の施策を探究しているうちにスローシティ(cittàslow)やアルベルゴ・ディフーゾ(albergo diffuso:分散型ホテル)などのイタリア発の地域づくり運動に関心をもった。スローシティとは、地元の食、歴史や文化などの地域の資源を最大限にいかして、持続可能性を高めていくもの。主としてイタリア中部や北部の小さな村々を訪問し、アグリツーリズモ(agriturismo:アグリツーリズム)、コミュニティ活動なども含めて現地調査を実施している。だいたいどの地域にも荘厳な教会があり、その前には広場(piazza)が構えている。近くには必ずバール(bar)もある。広場やバールには、いつも人々が集い、歌っているかのごとく聞こえる会話が飛び交い(本当に歌っている人たちもいる)、いかにも楽しそうである。一方、石畳の静謐な小径を逍遥していると中世に紛れ込んだかのような錯覚に陥る。これらの情景が、まるで映画の一シーンのように輝いて見える。
美麗な街並みはもちろんだが、カンパリズモ(camparismo:郷土愛)あふれる人々との交流もイタリアを好きになった一因といえるだろう。空港の売店などで、片言のイタリア語で挨拶すると、「Perfetto! (完璧!)」と何度も褒めちぎってくれる。その上、ミラノ訛りがあるからミラネーゼかと思ったよ、などとお世辞をいわれ、いい気持ちにさせてくれる(それで余計なものまで買ってしまう)。あと、いろいろなところで、日本語の挨拶を教えてほしいとよく頼まれる。ホテルを出発するとき、私が「Grazie. Arrivederci. (ありがとうございます。さようなら)」というと、ホテルの人は覚えたての日本語で「ありがとうございました」と応えてくれて、お互い肩をたたき合って笑ったこともあった。また、あるときは小さなお店の人とイタリアの郷土愛、日本の歴史や文化、盆栽などで話が弾み、まだ昼間なのにシャッターを下ろして店じまいしてまでおしゃべりを続けたこともあった。このようなことが渾然一体となって、イタリアに包まれていたいと感じるようになったのだろう。
一般科目や研究会の授業でも、イタリアの地域づくりをテーマとして一部取り入れるようになった。最近では、研究会の学生たちの多くが、スローシティ、バールなどに関心をもつようになり、卒業プロジェクトのテーマにする学生も増えてきた。また、卒業旅行先などにイタリアを選ぶ学生が多くなり、イタリアの大学に留学する学生もあらわれた。そのうち、授業のスライドやメールのやりとりでも簡単なイタリア語が飛び交うようになり、イタリア製のお菓子や小物のファンになった学生もいる。2022年度にスローシティ国際連盟本部の事務局長にオンラインで講演してもらったときには、2名の学生たちがイタリア語での質疑応答にチャレンジした。イタリア好きはうつるものらしい。
■オンライン講演の様子
スローシティは日本の地域づくりでも注目されだしている。2024年度にはスローシティの普及と関心のある自治体の交流を目的とした「スローなまちづくり全国推進委員会」が設立。飯盛義徳研究会でもスローシティをテーマとした新たな研究プロジェクトが立ち上がった。まさに、住んでいて気持ちがよく、皆が幸せを感じるスローなまちというスローシティのコンセプトは、健康と文化の森地区の地域づくりにもヒントとなるだろう。