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2025.10.21

新米できました|環境情報学部長 一ノ瀬 友博

藤沢市は、神奈川県で4番目の農業生産を誇る自治体である。その大部分は湘南藤沢キャンパス(SFC)が位置する市北部で生産されている。キャンパスから西に(湘南台とは反対側に)一歩外へ出ると、畑や温室が広がる風景を目の当たりにできる。周囲では果樹栽培や畜産も盛んである。SFCには農業サークルがあったり、農家の皆さんとつながりを持つ学生はいるものの、ほとんどの学生は農業とは全く無縁なままSFCを巣立って行く。

そんなSFCで、2022年に有志の学生による「オコメンプロジェクト」が発足した。キャンパスに近い御所見地区で約700m2の水田を借り、ほぼ人力だけで稲作に挑戦した。最初の年は田起こしから収穫まで延べ200名以上の学生が関わったそうだ。2023年度からは長谷部葉子研究会の活動として取り組むことになり、同時にSFCサステイナブルキャンパスプログラムの一部としても位置付けられた。2024年度末に長谷部先生が定年退職されたために、2025年度からは和田直樹研究会の活動の一部となっている。

このオコメンプロジェクトを2023年度の秋学期から必修科目である新入生向けの「環境情報学」で活用している。春学期は田植えを、秋学期は稲刈りを経験する。先週末の18日に今年の稲刈りを実施した。秋学期の履修者の多くは、留学生や帰国生である。朝9時にキャンパスを出発し、宇都母知神社や周囲の畑を見学しながら30分ほどかけて、水田まで移動した。

稲刈りは3人一組になって進めた。一人が鎌で稲を刈り、残りの二人が束に紐をかけていく。水田には餅米と緑米が植えられていて、それぞれ別々に束ねる。また、刈った稲を「はざがけ」するために束はしっかり結ばなければならない。10時前から作業を始め、1時間半弱で田んぼ1枚の半分程度が終了した。一見簡単な作業であるが、同じ姿勢で1時間近くも作業しているとあちこち痛みがでてくる。当日は気温が25度以上になり、季節外れの暑さでもあった。11時半頃に作業を終了し、おにぎりをはじめとした軽食を食べて解散となった。

途中からすっかり疲れてしまった学生もいれば、最後まで黙々と作業を続ける学生もいた。留学生にとって初めての経験になるだろうと思っていたが、日本人の学生の多くも初めて稲刈りを経験したということであった。折しも日本では去年から米不足を経験してきたが、私たちが普段食べているお米を作るのは簡単なことではない。現代の日本の稲作は手刈りで収穫など行っていないが、「農家って大変なんだなあ」としみじみ語る学生もいた。半日という限られた時間ではあったが、SFCの周辺地域と人々の生業の一端を知る貴重な機会になったのではないかと思う。


一ノ瀬 友博 環境情報学部長/教授 教員プロフィール